2023.12.18
くわいの収穫取材記
投稿スタッフ
加賀野菜15品目のひとつ「くわい」。
田んぼのサファイアとも呼ばれるなんとも麗しい藍色の食材です。
全国的には広島県が一大生産地ということで、全国のシェアの約7割を占めているそうです。
金沢では、現在3軒の農家さんが生産しておいでます。
くわいは大きな芽が出ることから「めでたい」食材として、おせち料理には欠かせない存在です。
金沢でくわいが作られるようになったのは、江戸時代の加賀五代藩主の前田綱紀が、愛知県から取り寄せたのが始まりと言われています。
金沢市内でも北東部の御所・小坂地区で栽培されており、加賀れんこんの産地としても有名なエリアです。
毎年12月の2週間程の短い期間での出荷とあり、昨年はあっという間にその期間が過ぎてしまい、今年こそ絶対取材に行きたいと目標にしておりました。
個人的には野菜の中で最も美しい存在だと思っています。
11月くらいから色々な市場の関係者さんに生産者さんと繋いで欲しいとお願いし続けていたら、初競り(今月14日)の際に金沢中央卸売市場の仲卸さんが、生産者さんとお話をしてくださり、ご縁を頂きました。こうやって想い続けていると叶えてくださる方々が近くにいる環境、本当に有難いです。
12月14日に初競りだったのにも関わらず、翌週には出荷終わってしまうから早く行っておいでーとの助言をいただき、本日雨雪の降る今年1番の冷え込みの日にも関わらず、お邪魔してきました。
御所町に畑を構える、高田一男さんにお会いしてきました。
現在70代後半とのことで、奥様と二人三脚で加賀れんこんと共にくわいを生産されています。最近では、息子さんもお手伝いをしてくださるそうです。博識でお話上手な方で、雪や雨が降る中2時間程、くわい生産のお話はもちろん、畑や用水の管理の話や御所町の由来までお話してくださいました。
まず、謎多き存在のくわい、皆さんどのように育っているかご存知ですか?
くわいの生産は前年から始まります。
というのも、前年に育ったくわいの中から傷や病気のないものを選び貯蔵しておいたものを、種芋として植付けます。
現在は3月頃に掘り出したくわいを金沢市の農業センターで管理保存してもらっているとのことですが、その昔は集落内に洞穴を掘り、さつまいもの苗や籾殻を敷いて保管していたらしいです。でもやはり水が染み込んだり温度管理が難しく、現在ではその方法は取られていません。
その保管していた種芋を6月頭に持ち出し、6月14日に植え付けるとのことです。
「6月10日前後でも良いのですが、6月14日やねぇ」と話されていた高田さんのお言葉に、なんでそんなピンポイントで日にちが決まっているのだろうと疑問に思っていたところ、くわいを金沢に持ち込んだ前田家に敬意を示して、前田利家が金沢城に入城した6月14日を目安にしているとのことでした。
種芋から苗が深く延びることから、田んぼでは横90cm、縦50cm程の間隔を空けてひとつひとつ手作業で植えられます。お互いが近すぎると、地下で絡まり収穫の手間が大きく増えるとのこと。大体手首が埋まる程の深さに植えます。
伝統野菜はくわいに限らず、現代の品種改良を加えた品種に比べて、大量生産には不向きで手間がかかるという性質を兼ね備えています。
くわいは、種芋から芽が生えたところから、アブラムシなどの害虫との戦いが始まります。
それから11月頃まで病気にならないように何度も消毒を繰り返し、上の葉が枯れた頃に収穫が始まります。
地上に伸びた茎とは別に、地下に潜った茎(ほふく茎)にできる、養分を蓄えて丸くなった部分(塊茎)がくわいの過食部です。 1つの種芋から10個程?のくわいが採れます。(大体大きいサイズのものが7−8個採れるけど、全部を数えたことないなーと高田さん)
というのも、数えられない理由は、高田さんが収穫をしている様子を見て納得しました。
まず、最初に根の根幹部分を鍬で切り落とします。その後に上茎部分を引っこ抜くのですが、粘性の強い土壌の中から、全てのくわいが素直にほふく茎についてくる訳ではなく、土の中に残ります。
その土の中に残ったくわいを水圧を加えることによって地上(水中)に浮かばせて、それをひとつひとつ掬い取ります。水中ポンプを使い始める前は、全て手を土の中に入れて取っていたとのことで、そのお手間を考えるだけで気が遠くなります。
昨年から導入したという熊手を器用に使って、掬い取っている間にも、あちこちにくわいが水中を動き回っている様子が見られました。また、熊手の間隔より小さいものは、抜け落ちていきます。
それをひとつひとつ手で取って、の繰り返しです。
翌年まで田んぼに残してしまうとそこから発芽してしまうので、先述の通り等間隔に植えても地下での絡まりが発生してしまうので、どんな小さなものでも全てその年のうちに取り除く(収穫する)ことが必要なのです。
そして今日は今年1番の冷え込みで雪が舞っている中での作業。
張り切って家にある1番長い長靴を履いて行ったのですが、それでは田んぼには入れんよーと言われました。確かに高田さんの太ももまでの深さの田んぼ。そんな中、足先の感覚を頼りに、すでに掘った場所とそうでないところを見極め(感じ分け)、作業を進めます。近くの用水からポンプの水を引く際も、用水の水を堰き止めるために薄いゴム手袋一枚のみの手で冷たい水の中土俵を積んでおられました。
水に入っていない私たちですら、鼻水流しながら、足先の感覚を失いつつあったのですが、全ての作業を水中でされている様子を、普段おしゃべりな私たちも言葉を失い、ひたすら眺めておりました。
くわいの生産はその過酷さから後継者が見つからず、高齢化が進み年々減っているという話を耳にしていましたが、想像以上の大変さに、頭が下がるという言葉では表せないほどの、感謝の念を持ちました。
しかも、高田さんは、今週の雪予報を加味して昨晩は夜の10時半頃まで、奥様にそろそろと促されるまで作業をされていたとのことでした。昼間の明るい時間でも、吸い込まれそうな田んぼなのに、頭にヘッドライトをひとつ点けての作業だったようです。
帰宅後に熱々のお風呂に入っても、冷えがなかなか取れず、長く入り過ぎて逆にのぼせそうになったんだよと高田さん。。
今日からお店で見かけるくわいを今までと同じ見方では見られない、そんな体験となりました。
今日はその様子を見ることはなかったのですが、田んぼから掘り出した後も、川で土を流し、ひとつひとつ手作業でサイズ毎に詰めて、という更なる出荷作業があります。
いつまでできるかわからんけど、という高田さんのお言葉、「いや、頑張ってくださいよ」なんてとても言えず「本当に無理なさらないでくださいね」とお伝えして田んぼを後にしました。
夏にきよし農園さんに「ヘタ紫なす」の取材に伺った際に、毎日暑い中での収穫は厳しいなぁなんて思いましたけど、冬のくわいも、そしてきっと加賀れんこんや金沢せりなどもきっと同様に違った厳しさがあるんだろうなと知りました。
生産者さんは、本当にすごい。それに尽きます。
これからの季節見かけることの多くなるくわい、ひとつひとつ大切に大切に頂こうと思います。