2021.09.24
加賀れんこん農家さん取材記
投稿スタッフ
先週の金曜日に「加賀れんこん」の農家さんに取材をさせていただきました。
早朝から気持ちのよい晴れ空の下、素敵なお話を色々聞かせていただいたので、
その時の様子をちょっと長くなりますが、皆様にもお伝えできたらと思いまとめてみました。
■加賀れんこんとは?
「加賀れんこん」とは、加賀野菜15種の1種で、品種名ではなく金沢市やその近郊で獲れる支那白花という品種の蓮根をそう呼びます。
イチバのハコでも、初秋から春にかけてお届けしているので、お試しいただいたことのある方も多いお野菜かと思います。
特徴としては、ほっこりとした歯触りと粘度の高いもっちりとした肉質があります。
そのため、石川県では「はす蒸し」や「蓮根団子」、「すり流し」等、加賀れんこんをすりおろし、その粘り気の強さを活かした郷土料理が古くから親しまれています。
蓮根は全国的には、茨城県が収穫量がトップで、流通する蓮根の約半数は茨城県産です。(2019年までの過去14年間の統計)
石川県は10位で約1.7%と少ないのですが、茨城県の蓮根は別品種とのことです。
炒め物などにすると、加賀れんこんもシャキシャキした食感をお楽しみいただけますが、先ほど羅列した郷土料理のような食べ方は、北陸地方の支那白花に適した調理法で、全国的にはあまりこういった召し上がり方をされているところが少ないと思います。
そんな特徴を知っていただいた上で、加賀れんこん農家さんのお話をさせていただけたらと思います。
■「北ファーム」の北博之さん
まず、加賀れんこんの収穫方法は、大きく分けて2つあります。
金沢市内の小坂地区などで伝統的に行われている「鍬堀り」と水を張った畑でポンプの水圧を活かして掘る「水堀り」です。
今回、私たちは金沢市と内灘町にまたがる河北潟の近くの干拓地に蓮根畑を持つ、
「北ファーム」さんにお邪魔し「水堀り」を見学させていただきました。
北ファームさんは、日本の農業の未来のために意欲的に経営や技術改革に取り組み、地域社会の発展に貢献している農業団体として、2019年に日本農業賞の個人経営の部で優秀賞を受賞されました。他にも農業分野で数々の受賞歴をお持ちとのこと。
ご兄弟で経営をしていらっしゃる中で、今回は弟さんの北博之さんにお話を伺いました。
北さんご一家は、元々稲作農業を営んでおられ、その一部で加賀れんこんの栽培を始めたのは10年前。
現在もお米、そして大麦、大豆なども育てておいでます。
ちょうど稲刈りも始まるお忙しい時期にもかかわらず、朝6時半から1時間半ほどゆっくりお話を伺いました。
博之さんは、農業に従事する前に一度車の設計のお仕事で就職をされてました。
しかし、クーラーの効いた室内での仕事ではなく、自然の中でのびのびと仕事をすることにより魅力を感じるようになり、金沢に戻り農業で生きていこうと決心したとのことです。
ただ、その前職で得た知識で、農業機器のメンテナンスを一任されており、高級車を買うくらいなら農業機器を買いたいとお話されていた際にキラッと輝く笑顔が素敵でした。
自然相手のお仕事、そのひとつひとつの手間を考えると、機械でそれが補えるのであればそうすればよくて、そのことで少しでも就農者が増えていけばいいのではないか、という考え方はすごく共感を覚えました。
トップの写真を見ていただけたらわかるかと思いますが、博之さん、本当に素敵な笑顔をお持ちな、気さくな方でした。
北ファームが加賀れんこんを作り始めてから10年とのことでしたが、ご自身が納得いくれんこんが収穫できるまでに6-7年かかり、ようやくここ数年でいいものが獲れるようになったとおっしゃってました。
あ、ちなみに大事なことを言い忘れていたのですが、北ファームさんの加賀れんこんは100%有機農法で育てられています。
美味しい加賀れんこんを育てるには、やはり土作りが大事で、「人間も土も生き物は美味しいものを食べた方が幸せでしょ?だから栄養価の高いご飯をあげて育ててる感覚」とお話されていました。もちろん、細かい内容は企業秘密です。
そして、納得いく加賀れんこんを育て上げるのに、長期にわたり色々な挑戦と工夫を重ねてこられた経緯をお伺いしながら、とっても印象に残ったお言葉があります。それは「自然相手だからそれが楽しい」そして「難しいからこそ面白い」というお仕事に対しての姿勢。
実は、大豆作りは最近始められたようで、梅雨のない北海道などで多く育てられている大豆は、石川県の気候では育てるのはとても難しいそうです。
それでも、それを挑戦することがとても楽しいと言わんばかりに、とても素敵な笑顔で大豆の話をしてくださいました。
(トップのお写真、実は大豆作りについて語っておられた際に撮ったものです笑)
ちなみに、最近では息子さんも農家を継がれたようで、息子さんに伝えていきたいことは「とにかく美味しいものだけ作って欲しい」とのことです。
■加賀れんこん収穫時期
さて、では実際お伺いした加賀れんこんの収穫についてです。
加賀れんこんは、まず毎年4月に根付けをします。そして、大体お盆を過ぎた8月中旬から、翌年の5月頃まで収穫が出来ます。
長いと思いません?私、もっと短い期間に収穫をして、保存をしているのかと思っていました。
そして、もっと面白いのが、加賀れんこんの概ねの成長は8月末で終わるらしいです。
なので、毎年初夏の気候がとても重要になってきます。北さんはとにかく葉を大きく育てて、日光を多く取り込めるように心がけているとのこと。夏がしっかり暑いことが大事で、また台風や強風で葉が倒されると、せっかく葉が大きく育っても十分に日光を取り込めないため、そういった気候の変化をいつも気に掛けておられるようです。
今年はどうもその2つの条件を見事クリアできたようで、「豊作」が予想されていますよ!
そして、8月〜10月頃にかけては、収穫の前日もしくは当日に茎の部分を倒して、収穫するようです。
(10月以降は、茎から上の部分が全部枯れるため)
その直前に刈る、というのにもこだわりがあります。
というのも、茎を切り落とした時点で、蓮根の呼吸が止まります。
呼吸が止まった蓮根は、約1週間ほどするとだんだん白くなります。
茨城県等で育てられる品種に関しては、その白さが市場で評価されるため、早めに茎を刈ってから収穫するとのことです。
一方、写真を見ていただくとわかると思うのですが、掘りたての加賀れんこん、すごく赤茶色くありませんか?
これは、土ではなく、実は「錆び」と呼ばれていて、実際土壌に含まれる酸化鉄が付着した色で、
加賀れんこんに関しては、この錆びが付いているものほど、扶翼な土壌で育った新鮮な(取れ立て)蓮根として価値が高いのです。
ただ、10月以降は茎から上の部分が全て枯れ、呼吸が止まるため、今の時期のものより錆びは薄くなります。
その一方、気温が下がるにつれ、土の中で蓮根の中のでんぷん質が糖度や粘度に変わり、この頃から加賀れんこんらいしい特徴が強く出てきます。
つまり、
8-10月頃 新鮮シャキシャキ
11-2月頃 ねっとりもっちり
3月以降 少し繊維質が強くなる
と、同じ加賀れんこんでも時期によってその味わいが変わってくるのは、収穫方法、畑の気温、れんこんの土の中での変化に関係しているのですね。
実は、イチバのハコの定期便【ツキのハコ】では、毎月違った食材を試していただきたため、同じ食材を2回お送りすることはないのですが、加賀れんこんだけは10月と2月にお届けしており、10月にはシャキシャキを活かしたれんこんのはさみ焼き、2月にははす蒸しのレシピで、加賀れんこんの違いを体感していただいています。
北さんによると、8月の本当の本当の獲れ始めの初物に関しては、一番若い節の部分は生で食べることができるとのことで、来年は是非8月のものを試してみたいと思いました。
北さんの好きな加賀れんこんの食べ方は、やはりすった蓮根をそのまま汁にドポッと入れて、蓮根団子としていただく方法だそうです。
粘土の高い加賀れんこんはつなぎが不要で、すりおろしたものの水をちょっと切って入れるだけでお団子になりますよ。
■加賀れんこんの収穫方法
加賀れんこんの収穫方法に関しては、前述の通り2つありますが、今回は「水堀り」についてお伺いした内容をお伝えしたいと思います。
おそらく「鍬掘り」とは違った部分があると思いますので、ご了承くださいませ。
まず、加賀れんこんの伝統的な掘り方は「鍬掘り」です。金沢で蓮根が栽培され始めたのは、江戸時代の藩政時代の前田家の5代目頃からとの記載があり、その頃は城下の金沢市内で栽培されていたため、水田地域の稲刈り後、田んぼが排水されるため、自動的に蓮根畑も水が抜かれていたのでは、とのことでした。
一方河北潟のような湿地帯には年中豊かな水があり、そしてまた、技術的にも茨城などの先進地から水堀りの方法を学び取りれたそうです。実際、鍬掘りより水堀りの方が、収穫の効率が2倍以上高いとのことです。
こうやって書いてしまうと、水堀りがとても簡単な作業のように聞こえてしまいますが、それは違います。
実際、北さんが目の前で加賀れんこんを掘ってくださったのですが、スタッフ一同まず「これは…かなりの重労働だなぁ」と思いました。
というのも、北さんの畑は60cmの水を張っており(ちなみに比較対象に出し過ぎですが、茨城だと30cm程だとか)、成人男性でも腿あたりまであります。北さんが結構あっさりサクサクと畑の中を歩いていらっしゃったので「そんなに簡単に歩けるんですね」なんて言ってしまったら、「多分あなたたちだと一歩も歩けんよ笑」と言われてしまいました。本当にすみません。
さて、収穫方法ですが、かなり高圧の水ポンプを片手に持ち、畑の中に正座のように座り、もう片手で、目に見えない蓮根を探します。
そして、見つけたら、そこに水圧をかけて、なるべく色んな箇所を触らないようにして、グググと抜きます。そして、水面に持ち上げられた蓮根は、その場ですぐポンプの水により綺麗に泥を隅々まで洗い流されます。
ここで、大事なポイントのおさらいです。
まず、①色んな箇所を触らないこと。これは、その指圧によるストレスで、蓮根がタンニンを出して黒くなってしまうからとのこと。
そして、②土をすぐ全て洗い退けること。これも土に触れた部分が黒ずんでしまうため、できるだけ早く取り除くことが重要とのこと。
(蓮根は土がついたまま保存した方が良いという説もあるので、これは水堀りだけのお話かもしれません。)
そして全ての収穫が終わると、ソリのような小さなボートに山積みになった加賀れんこんと重そうな太いポンプを両手で引っ張りながら、畑を移動するのですが、北さんですら一歩一歩腰を入れてゆっくり歩きながら引っ張らないといけないほど。
それが、今のようなまだ暑さの残る時期ならまだしも(それでも水は冷たかったです!)、これからどんどん気温が下がり、雪が降り、畑の表面が凍っても行われると想像するだけで、ほんとうに頭が下がる思いです。
■さいごに
北さんとお話をさせていただいている中で、北さんのお仕事に対する姿勢の話を伺った際、
ちょうど思い出したことがありました。
それは、偶然にも、今年の3月に公開された加賀れんこん農家さんをテーマにした映画「種まく旅人〜華蓮のかがやき〜」のワンシーンです。
この映画、実は加賀れんこんのレシピの監修で、イチバのハコの谷口が関わっていたこともあり、
イチバのハコスタッフで一緒に観に行きました。
その際、うろ覚えで申し訳ないのですが、蓮根農家さんが静まり返った早朝の蓮畑で華がぽんっぽんっとちいさな音を立てながら咲き始めるのを眺めながら、「どんな仕事についても、結局自分の向き合う姿勢や熱意で仕事というものは変わってくる」という内容のことを話していました。
その時、ちょうど個人的に「働くということ」についてよく考えていた時期と重なり、とても印象的で胸が熱くなったのを覚えています。
たぶん、北さんみたいに、人が苦しいと思うことを「面白い」と思えるようなマインドは、どんな仕事に就いていてもとってもプラスに働く要素だと思いますし、とにかく、どんなことでも「楽しい」「面白い」「こうやってみよう」「これがダメならこれはどうだ?」と思いながら色々挑戦することって、同じ作業でも「やらされている」「やりたくない」という気持ちでやるのとは全く違いますもんね。
世の中的にキツイお仕事と言われている農業も、あんなにキラキラした顔で取り組んでおられる姿を見ると、180度違う印象を持つと思います。北さんご自身、そして息子さんが、こうやって農業を続けて行こうと思われたのも、きっとこういう姿勢が脈々と受け継がれている証拠なのだろうな、なんて思いました。
もちろん色んなご苦労もあるかと思います。ただ、それを感じさせない、「格好良さ」がとても印象的でした。
もしかしたら、この映画の監督さんも、れんこん農家さんと接する中で同じようなことを感じられたのではないかなと、勝手に繋がりを感じてしまいました。
映画を観た後に、夏になったら絶対加賀れんこん農家さんに取材に行こうねって話していたことが叶い、またこうやってそこでの学びを思い出させていただくような経験をし、個人的にとても学びの多い素敵な取材となりました。
あ、ちなみにこの映画の公式HPのスペシャルインタビューで、北ファームさんも紹介されています。
(加賀れんこん農家さんのモデルは別の農園さんとのこと。)
https://tanemaku-tabibito.jp/interview.html
さて、加賀れんこんの取材記は以上となります。
イチバのハコでは、現在定番商品の【金澤のハコ】【加賀野菜のハコ】【蒲焼きのハコ】で加賀れんこんをお届けしております。
また、10月中は【金沢おでんのハコ】、そして10月と2月の【ツキのハコ】でもお届けいたします。※ツキのハコは1回の購入も可能です。
是非興味を持っていただけたら幸いです。